失われた世界

今日の午前中の予定はコナン・ドイルの「失われた世界」の舞台だとされるロライマ山の頂上をヘリでアッタックすることになっている。

「失われた世界」は確か、中学に入りたての頃に読んだ記憶があるが、今回、ギアナ高地ツアーに申し込んでから図書館で再読した。

ほら吹きと揶揄される古生物学者のチャレンジャー教授が科学講演で、先史時代に途絶えたとされる恐竜が今でもアマゾンの奥地には生息しており、実際にその恐竜を発見したと語ると、会場は騒然となる。真相を確かめるためチャレンジャー教授を隊長として比較解剖学のサマリー教授、探検家のロックストン卿と新聞記者のマローンが探検に加わることになりアマゾンの奥地に向かう。

さまざまな困難を乗り越え探検隊は、メイプル・ホワイトランドと名づけられた周囲を絶壁に囲まれた台地(ロライマ山と思われる)の頂上に登りつく。

そこはジャングルや沼地、中央には湖があり、太古の昔に絶滅したとされる翼竜や禽竜、恐竜が闊歩し、また、猿人とインディアンが戦いを続ける、まさに失われた世界であった。

恐竜に襲われたり、猿人とインディアンの戦いに巻き込まれたり、ストーリーの展開も面白いが、強烈な個性のチャレンジャー教授、教授とことごとく対立する理性的なサマリー教授、行動的なロックストン卿や特ダネ狙いの新聞記者マローン、4人が困難にあっても決してあきらめることなく立ち向かうジョンブル魂とウィットやユーモアに溢れた言行は再読しても結構楽しめるものであった。

で、ロライマ山と思しきメイプル・ホワイトランドに、コナン・ドイルをして、LOST WORLDを着想させたもとは何なのか興味津々である。

朝5時、真っ暗のなか、懐中電灯を頼りに洗面を済ませて外に出ると、夜明け前の薄暗い空を背景にロライマ山とクケナン・テプイが幽かに見え、30分後にはくっきりとその姿を現してきた。クケナンは戦艦を前方から眺めたように勇壮であり、ロライマは巨艦が悠然と横たわっているようである。

上空はどんよりと曇っているが、ロライマ山は麓に雲がかかっているだけで頂上辺りには雲がない、ガイドのウヴェさんの表情も明るい。LOST WORLDの世界にこの足で立てると思うと足取り軽くヘリの発着場に向かう。

ロライマ山は標高2810m、ギアナ高地にある100余りのテプイのなかで最も高く、頂上の面積は東京ドーム6000個分もの広さがあるだそうだ。

断崖に囲まれ、この広大な頂上をもつロライマ山について、ペモン族の人々は大きな木の切り株だと考えていたと言う。その巨木には世界中の果物や野菜が実っていたが、ある時、彼等の先祖の1人によってその巨木が切り倒され、大洪水を引き起こしたのだと言う。ロライマ山が切り株だとはなんとも気宇壮大な着想である。

ヘリ・フライト

6時過ぎに、ヘリのぱたぱたという軽快な音が聞こえてきて、10分後には第1陣が出発する。
山の天気の移り変わりは速い、5分もたたない間にロライマの頂上が雲に覆われ始めた、ロライマの頂上は大丈夫だろうか、着陸出来たのだろうか?

1陣は着陸出来たとしても2陣は駄目かもしれないと、2陣の皆さん心配顔である。で、添乗員が1陣に乗ったことがやり玉にあがる。

もともとパンフレットには添乗員は同行しないと書いてあるのに、添乗員は1陣でロライマ山に着陸、5番目のクジを引いたAさんは2陣で駄目となったらどうなるのよ

とご婦人方は大変ご立腹である。理由がどうあれ、お客さんの観光機会を奪うようなことを添乗員は絶対してはならないことは明らかだ。

小1時間後に1陣が帰ってくる、どうやら着陸出来なかったようだ。こちらから見るよりも頂上の着陸地点は厚い雲に覆われていて、サンタ・エレナ随一と言われる機長も着陸を断念したらしい。それでも、1陣の皆さんは雲の中でヘリが絶壁のすぐ目の前まで近づいてホバーリングすると物凄く怖かったと満足げである。

朝食をとりがてら1時間ほどロライマの雲の様子をみて、8時過ぎに2陣が出発する。機長はどうもロライマに着陸するのを諦めているらしく、ヘリはロライマとクケナンの間に侵入するようだ。

しばらくすると、ヘリは雲の中に突入しクケナンの断崖に沿って進んでいく。雲が切れるとすぐ目の前にクケナンの数億年の年月を経た赤黒い絶壁が迫ってくる。慌ててシャッターを切っていると、また雲に隠れる。何回か繰り返しながら上昇しヘリが頂上付近の絶壁に近づくとさすがにちょっと怖さを感じる。

断崖の端らしいのが見えてきたと思ったらヘリはさらに上昇して頂上の上空を飛行し、クケナンの頂上台地が一瞬視界に入る。

このあとヘリは引き返してロライマの絶壁に回るが、ロライマの頂上への着陸は出来ない。LOST WORLDの世界に実際に立ってみることがツアーに参加に参加した理由の1つであったが・・・・・

後ろ髪を引かれる思いをしながら、10時過ぎにパライ・テプイをあとにする。

ロライマ山へのヘリ・フライトは他の旅行社のツアーではサンタ・エレナからのオプショナルツアーとなっており、パライ・テプイに宿泊するこのツアーは異色である。

ロライマにより近い基地であればフライトもより機動的に、また、アッタック機会を増やせるとする旅行社の意欲は買えるが、パライ・テプイは5、6軒の小屋が並んでいるだけの何にもない部落である。

今回はたまたま全員がオプショナルに参加したが、もし、オプショナルに参加しない人がいたら、この何にもないこの部落で何をして過ごせばいいんだろう。パライ・テプイに宿泊するのであればヘリ・フライトはオプションではなく、本旅程に組み入れ、催行不能となった場合には、ヘリ・フライト相当額を返却するというのが良心的な企画だと思うがどうなんだろう。