さて、いよいよ頂上に向かう。旅行社のサイトでは頂上にたどりつくには385段の階段を登らなくてはいけないと説明されていたが、ちょっと見に100段も無さそうである。どうやらガイドさんは年寄をおもんぱかって裏口入学を勧めてくれたようだ。

シャンティプル寺院

頂上に立って最初にお目にかかるのがシャンティプル寺院、昨年のネパール大地震ではスワヤンブナートもガレキだらけとなったと聞いたが、この建物はなんとか倒壊をまぬがれたようだ。なんとかつっかえ棒で支えられている感じだが、入口の扉には由緒ありそうな彫刻が施されている。

ガイドさんによれば内部は秘密となっていて入口の扉は開けられることがないそうだ。地下の部屋には8世紀のアチャヤ(?)という高僧が住んでいるが、瞑想の技によって何世紀も生き続けているらしい。

彼は天気を支配する魔力があり、ある時カトマンズの盆地が干ばつに襲われた時には、王が地下に入ってその高僧からマンダラを受け取り空に向かってかざすと雨が降りだしたそうだ。内部の壁にはその時のことが描かれているとのこと。

さて、さほど広くない境内を見渡すと建物や仏像も修復され、土産物屋もところ狭しと品物を並べていたりしていて、ガレキだらけだったことは感じさせない。

で、時計回りに進むと、復旧方針が決まっていないのか2階が崩落、一部が残った建物がある。ガイドさんによるとこれはゴンパ(僧院)で、中には6mもある文殊菩薩があったそうだ。また、この僧院には60~70人の僧が修行していたとのこと。建物の前にはこの僧院で修行中に生涯を終えた僧侶の小さなストゥパがたくさん並んでいる。

地面マンダラ

少し進むと、地面に縁のある円い銅板と四角い穴が並んでおり、赤や黄色の花びらが供えられている。ガイドさんによるとこれはマンダラなんだそうだ。日本で曼陀羅と言えば當麻寺などの曼陀羅のように掛け軸であるが、もともとは地面に描かれていたらしい、それにマンダラは円盤の意味があるようだ。

ドルジェ

マンダラのすぐ傍に大きなドルジェがある。日本では金剛杵と呼ばれており、弘法大師の肖像画で左手に数珠、右手にこの金剛杵を持っているのが描かれているのを見たりする。

密教では修行を妨げる悪霊と行者の内にある煩悩を打ち砕き結界を守るものとされているらしい。両端が尖っているのは槍の刃で、もともとは古代インド帝釈天の武器であったが、煩悩を打ち砕くものとして密教の法具に取り入れられたようだ。

ドルジェから見下ろすと直線の階段が遥か下の方まで伸びている、こちらが365段ある正面の階段のようだ。

ストゥパ

ドルジェの後ろには白いドームの上に櫓が伸びているようなものがある。これが世界で最も壮麗なストゥパ一つとされているスワヤンブナートのストゥパである。ドルジェのすぐ後ろのドームの壁には2つの祠がある、金色に輝く祠は大日如来と不動明王(?)が祀られているそうだ。

さて、ストゥパ、櫓の土台は四面となっていて釈尊の目が描かれている、釈尊が知恵の目で四方を見渡していることの表れか、目の下の‘ののじ’のような鼻らしきものは‘はな’ではなくネパール数字の1、調和を意味するそうだ。

土台の上の櫓には金色の輪っかの様なものが13個積み上げられている。これは法輪と言って、悟りの段階と云うか深さを表すらしい。そして天辺にあるのは金色の傘、涅槃を意味するそうだ。

スリランカのポロンナルワで30m以上あるドームの上に尖塔がのっているストゥパ(スリランカではダーガバと言う)を見たが、ドームの大きさに比べて尖塔は小さく簡素(建立当時は金箔が施されていた)であった。で、ダーガバは仏舎利を安置するもので、仏塔としては仏舎利が安置される尖塔が重要だと聞いた(もともとは土饅頭のよう土を盛った墓の中に仏舎利を安置した)

日本の五重の塔も仏塔として重要なのは心柱で、屋根などの外観はいかにすばらしい建築美であっても付け足しに過ぎないのであって、心柱の天辺(元々は心礎の中に仏舎利を安置した)には仏舎利の代わりに経典が収められているそうだ。

スワヤンブナートのストゥパはチベット仏教のストゥパの流れを汲んでいると思われが、チベットでもストゥパは元々は仏舎利とか聖遺物を納めるものだったものが、いつの間にか釈尊の生涯の主な出来事や仏教の世界観を表わすものに変わって行ったらしいので、このスワヤンブナートのストゥパは壮麗な装いで仏教の世界感を表現していると云うことのようだ。

ストゥパが仏舎利を安置する仏塔を意味するなら、スワヤンブナートのストゥパはちょっと違う。

ハラティ寺院

ドームの周囲に並んでいるマニ車を回した後、少し進むと、テントの中に赤いサリーをまとった女性達が固まっている。ここはハラティ寺院で、ガイドさんによればネワール族の女性達が月に一回こうしてお参りするのだそうだ。花びらや米、花粉、水などをお供えして僧からティカを貰うようだ。

ハラティ寺院はネパールの3代目(?)の王様の妃が天然痘で亡くなったことから天然痘や伝染病、子どもを守るヒンズー教の女神にささげられたものとか。転じて、子授け、安産、子育など女性の心配ごとにごりやくがあるとされて参拝者が絶えないらしい。

この後、巡礼者の宿泊施設の話を聞いてスワヤンブナート見物はおしまい。

階段を下っていると、谷を渡した数々のタルチョが見える。ガイドさんによればタルチョは青、白、赤、緑、黄色の5色の祈祷旗でそれぞれ天、風、火、水、地を表すとのこと。