ペリト・モレノ氷河

北の名だたる岩峰フィッツロイ山から、アルゼンチン湖に至る南北約170km、面積4500平方キロ(日本では山梨県とほぼ同じ)がグラシアレス国立公園に指定され、世界自然遺産にも登録されている。山岳地帯の美しい山と湖沼もさることながら、名前の示す通り、ここには約200もの氷河が連なり、ウプラサやビエドマ、スペガッツイーニ、ピオ11世など世界的規模の氷河が40以上ある。それらの氷河のなかで最も有名なのがペリト・モレノ氷河とされている。

ペリト・モレノ氷河の源はチリ国境のピエトロベッリ山(2950m)である。ここからモレノ山とネグロ山に挟まれた斜面を下り、全長は30km、表面積は250平方キロも広がっている。そして何万年も旅の終焉である氷河の舌(先端)の幅は5km近く、高さは50~60m、あとから後から押し寄せる圧力に押されて湖に張り出し、さらに一部は対岸の陸地に乗り上げて湖を分断している。分断された湖の南側がリコ水道、北側がテンパノス水道でアルゼンチン湖に繋がっている。
ちなみに、‘モレノ’はブエノスアイレス生まれの探検家でアルゼンチ湖やフィッツロイ山などを発見したり、チリとの国境策定にも貢献したフランシスコ・モレノを称えて名付けられたもので、‘ペリト’はパブロさんによればエクセレントとかエクスパートの意味だそうだ。

氷河クルーズ

ペリト・モレノ氷河見物は先ず、クルーズ。10時過ぎに、200人乗りのカタマラン(双胴船)で出発、リコ水道側の氷河に向かう。
バスの中からも気になっていたのだが、氷河から流れ出る水は純度が高いのでリコ水道は青く光って見えるのかと思っていたが、船上から真近に見ても青、緑、茶色が混ざったような不思議な色をしており、光の加減によっては白みがかったトルコ石のような色にも、また、ただの濁水のように見える。よく分からないが、氷河が削り取った岩石に含まれるミネラルかなにかが一緒に溶け込んでいるためかも知れない。

さて、観光客は一旦船内に席をとるが、ほとんどの人はすぐに甲板に出る。遅ればせながら、展望の良さそうな舳先に隙間を見つけて手すりに掴っていると氷河がだんだんと近づいてくる。
スイスのユングフラウヨッホの頂上から見たアレッチ氷河は風景の1コマと言うか、特に感慨もなかったと記憶しているが、この20階建てのビルが延々と続くような氷河は圧倒的な迫力があり、先に出発したカタマランも小舟のように見える。
さらに近づくと(と言っても300m以内には近づけない)、高さ30~40mもあろうかと思われるセラックが、あるいは真っ直ぐに、あるいは他と押し合うように険しく伸びていたりして荒々しく無秩序である。氷壁は全体として青白く、セラックのなかには鮮やかな蒼さをはなっているものも、ほのかな蒼さをみせているものなど神秘的である。

船が右手に進むと氷河の先端が対岸に乗り上げている様子が見えてくる。氷河が対岸に乗り上げて湖を分断するとリコ水道側の水位が上がり、トンネルを掘ってテンパノス水道側に流れ出す。落差が20m以上になると大崩落が起きるらしいが、現在は5.6mほどらしい。

船が氷河に沿って左に進路をとる頃には観光客の期待は氷河の崩落である。ドドーンと腹に響くような音がする、その方向にカメラを向けるとすでに水しぶきが上がるところだったりしてタイミングが難しい。1時間ほどのクルーズの間に3回くらいの小さな崩落があっただけでちょっと期待はずれ、この後の展望台から見物にあとを託してバスに乗る。

とろで、氷河はなぜ蒼いのだろう、
可視光はいろいろの周波数の光の波が集まったもので、全体としては色みがない白色光であるが、プリズムを通すと高い波長の波は赤色、低い波長の波は紫色に分光される。
氷は可視光にたいしてほぼ透明であるが、光の波長によって氷の吸収係数に差があり、赤の方が紫より1桁多く吸収されるらしい。したがって、太陽光が氷河に入射すると選択吸収が起り、氷の塊を透過するにつれて赤い色が徐々に減少して、次第に青い波長の光のみになっていく。で、その青い光が氷河のなかで反射か屈折を起こして再び氷河の外に出たとき青く見えると言うことのようだ。クレバスやセラックでは、表面から入った光が深部に達する前に横へ出てくるので、より鮮やかで明るい青に見えるらしい。