リスボン市内に戻り、昼食の後はフリータイム。
7時にレストランの近くのソフィテルHのロービーで待ち合わせしているので5時間ほどでサン・ジョルジェ城、大聖堂、国立古美術館を見た後、コメルシオ広場、ロシオ広場、フィゲイラ広場、リベルダーテ通りなどを歩いてみる予定である。

サン・ジョルジェ城の見学希望者を誘って、東京の母娘さんと地下鉄ブルーライン(ガイヴォタ線)に乗る。5つ目のバイシャ・シアード駅で、グリーンラインに乗り換えて、1つ目のロシオ駅で降りると、サン・ジョルジェ城へはすぐに行ける筈である。ところが、バイシャ・シアード駅で年配の駅員さんに尋ねたのが運の尽き、‘ロシオ’だけが通じたようで、乗換え口ではなくロシオ広場側の出口に案内される。引き返すのも面倒、と言うことで3ブロックほど歩いてロシオ広場に着き、タクシーでサン・ジョルジェ城に向かう。

サン・ジョルジェ城

アルファマ地区の狭い坂道をくねくねと上った丘の上にある。

古くはフェニキア人の影響があると言われているが、ローマ、西ゴート、イスラムと支配者が変わり、十字軍の支援を受けて南下してきたアフォンソ・エンリケスがイスラム軍から奪取したのが1147年、その後、1255年にコインブラから王都がリスボンに移された時、王宮となった。

王宮跡は城址公園となっていて、入場料は€5。公園の中ほどにアフォンソ・エンリケス像が立っている。城壁に沿って王宮跡を回り、テージョ川、対岸、リスボン市街のパノラマを楽しむ。時間がないので北側の城塞に上るのを断念、同行の母娘と別れて大聖堂に向かう。

大聖堂

急な坂道を10分ほど下ると、坂の途中に大聖堂がある。この大聖堂も1147年にアフォンソ・エンリケスの命で建設が始められたもので、当初は砦を兼ねたロマネスク様式であったが、その後、ゴシック様式やバロック様式の改修が加えられていると言う。
中央祭壇と有名なバラ窓をカメラに収めて次を急ぐ。

国立古美術館

国立古美術館はベレン地区の近くにあるのでタクシーで行くのがいいとガイドさんが言っていたので、大聖堂の前でタクシーに乗る。聞いていた通りリスボンのタクシーは車間距離を取らず、かなり乱暴な運転だが、無事に美術館に着く。チップ込みで€4、安い。

美術館は、1階にはおもにヨーロッパ絵画、2階は金・銀器、陶器や東洋美術、3階にはポルトガル美術が展示されているが、お目当てはガイドさんお勧めのボッシュの聖アントニオの誘惑と狩野派の南蛮屏風である。

聖アントニオの誘惑

プラド美術館で‘快楽の園’を観て以来、ボッシュは妙に気になっている画家の一人である。

絵の主人公は、リスボンっ子に人気者のあの聖アントニオではなく、3世紀後半のエジプトの聖アントニオで共同修道の基をつくった人である。彼は裕福な家庭に育てられたが若くして両親と死に別れた後、隠遁生活に入り、孤独と禁欲の苦行のなかで、怪獣や女に化けた悪魔に襲われたり誘惑されたり、度々の苦難を克服していったそうだ。

‘聖アントニオの誘惑’は3枚パネル画で、空を飛ぶ魚、猿、象、猪、蜥蜴、狼や異形の怪獣、枯れ木に垂れ下がる赤い布の下には女のヌード、本を読んでいる不気味な男、遠くには町が燃え上がっている様子など聖アントニオを誘惑した化け物どもの饗宴が描かれている。真ん中のパネルの台に肘をついて不安そうに正面を見ている男が、髭を生やしているので聖アントニオらしい。ボッシュの絵は‘快楽の園’でもそうだが、虫眼鏡が必要なほど画面の隅々まで緻密に描かれていて興味がつきない。同じ、オランダの画家、ブリューゲルがボッシュの影響を受けているのは間違いないようだ。

このほか、デューラーの聖ジェロモノ、ブリューゲルの7つの慈悲の行い、ホルバインの聖キャサリンの神秘的結婚、クラナッハのサロメ、モラレスの聖母子などなど。ベラスケスのマルガリータとヴァン・ダイクの肖像画は小品でうっかり見過ごしてしまいそうである。

南蛮屏風

桃山時代の狩野派の傑作と言われている金屏風が2対、左は黒い南蛮船が長崎に着いたところで、忙しそうに荷降をしている船員、船上では上官が居心地のよさそうな椅子に座って商談をしている上官、陸上では陸揚げされた品々がチェックされている様子などがかかれている。左は、もの珍しそうな見物人の前を進むエキゾチックな人や物の行列が描かれている。日本人とヨーロッパ人の交流がこうして恐る恐る始まったのかと思うと感慨深い。

国立古美術館はレジ袋(フリータイムで町を歩く時にはカメラやガイドブックなど手荷物を入れている)も持ち込み禁止、カメラも禁止である。美術館の話は画像がないと殆ど意味をなさないので、ここは35ユーロを払ったガイドブックにお出ましを願う事とし、美術館にメールしたら、5日後にthe Director of the museum の許可が出た旨の返事が来た、感謝々々。