9時前にホテルを出発する。今日の予定は、午前中はタオルミーナの観光をして、その後1時間ほど走ってメッシーナ、昼食をとってから連絡船で本土に渡り、ブーツの形に例えられるイタリア半島のつま先から踵まで500km以上をドライブすることになっている。ツアーのタフな移動のなかでも最もきつい1日になりそうだ。

麓の駐車場でマイクロバスに乗り換えて曲りくねった坂道を上っていくと、ウンベルト通りの東の入口、メッシーナ門が見えてくる。(東の入口がメッシーナ門、西の入口がカターニャ門である。単純にタオルミーナの東方にメッシーナがあり、西にカターニャがある地理からきているらしい)

ウンベルト通りを途中で左に折れ、緩やかな坂を上ったところにギリシャ劇場がある。オルケストラに入って劇場を見渡すとシラクーサのギリシャ劇場よりちょっと小振りな感じである。

ガイドさんによれば観客席の直径は115mなんだそうだ。BC3世紀、シラクーサと同じように岩山の斜面をすり鉢状に穿って造られたもので円形のオルケストラと背の低い舞台があったが、BC2世紀にローマ人が現在の形につくり変えたと言う。

ギリシャ時代には神話に因んだ演劇を楽しむことが多かったので神が住むと言われる山が舞台の背後にあるのは重要なことであったそうで、観客席からエトナ山を遠くに眺めながら演劇を楽しめるこの劇場の立地は理想的であったとのこと。

眼前にそそり立つ感じのレンガ造りの豪壮な舞台背景(スケーナ)は当時、観客席の最上段と同じ高さだったそうだ。
背後のイオニア海やエトナ山の風景を完全に遮断した閉じられた空間でローマ人は剣闘士の戦い、猛獣と剣闘士の戦いに熱中したらしい。オルケストラには戦で流される血を吸い込むために砂(アレナ)が敷き詰められていたと言い、アレナがアリーナの語源となっているそうだ。

オルケストラに掘られた大きな穴は、歌舞伎の奈落のように剣闘士や猛獣を迫り上げるためのものでリフトなどの装置を備えていたらしい。
観客席に上って舞台を見ると、現在はスケーナの真ん中の部分が崩壊しているので、その間からかってギリシャ人が見たエトナ山やイオニア海の絶景を眺めることが出来、また、後を見てもイオニア海の眺めが素晴らしい。

ギリシャ劇場の見物が終わり、坂道を下っていると道ばたの土産物屋のお兄チャンが日本語のガイドブックがあるよと呼び込みをしている。シチリアも最後なので今を逃すと買うチャンスがなくなると思い、値段交渉にちょっと時間がかかっているとツアーの皆さんの姿が消えてしまった。迷子になったわけだが、下の駐車場からバスが出発する時間が分かっているので慌てることない。

イソラ・ベッラを撮ったり、ゴッドファーザーⅢでマイケルがケイを迎えるシーンが撮影されたタオルミーナ駅を眺めるために市民広場に下りたりした後、ウンベルト通りをぶらぶらしていると、ショッピングタイムとなったツアーの皆さんとあちこちで出会い、添乗員が心配していたと知らされる。

しばらくして添乗員とも顔を合わせたので、お詫びをして早めに駐車場に降りる。