モザイク

(ガイドさんの話の続き)
モンレアーレの大聖堂と言えば、何と言っても壁一面を覆いつくしているモザイクです。聖堂内の四方の壁のモザイクの全体の面積は6,340㎡もあると言われています。
モザイクの起源はアジアと言われています、テッセラという小石やガラス片を貼り付けますが、金地のモザイクは2枚のガラスの間に金箔を挟んでつくります。

正面の後陣の半円形ヴォールトに描かれているパントクラトール(全能のキリスト)の半身像は高さ7m、幅が13.3mあり、顔の長さだけでも3mもあります。
身廊と側廊の壁には旧約聖書と新約聖書の物語が描かれています、正面入り口の所に有名なアダムとイヴの場面があります。

ガイドさんの説明は半分ほどにして、よく見ると右手の壁のコーナーに、神がエデンの園にアダムを連れて来る場面があり、正面入り口に目を移すとアダムの骨からイヴがつくられる場面やイヴがアダムの所に連れて行かれる場面が描かれ、左側の壁に移るとイヴとアダムが禁断の木の実を食べている様子、さらにアダムとイヴが楽園から追放される場面が続いている。
当時は聖職者が聖書を独占し、一般の識字率もゼロに近かったはずだから、こうして目に見える絵物語にして貰えば庶民も聖書に書かれていることに親しむことが出来たのではないだろうか。

右手の壁のノアの箱舟の場面をみていると、みなさんが内陣の方に移動を始めるので慌てて後を追う。
内陣の方に少し近づいて全能のキリスト像をみると、いかにも威厳のある表情で聖堂の隅々まで見渡しているようで、信者はどこにいてもじっと見守られている気になるのではないかと思う。
全能のキリスト像の下には幼子イエスを抱いた聖母マリアと天使や使徒が描かれている。左側の使徒は鍵を持っているのでペテロらしい。

主祭壇の前方の右壁面には司教の座る‘司教座’、左壁面には王の‘玉座’が設けられているが、ガイドさんによれば玉座の方が少し高く、立派に作ってあるそうだ。司教座の上にはグリエルモ2世が聖堂を聖母マリアに捧げている様子が描かれ、玉座の方にはグリエルモ2世がキリストから王冠を授けられている場面が描かれている。シチリアのノルマン王朝はキリストから直接王冠を授かるところを描いて王権が教権に優ることを誇示しようとしたものと思われる。

この後、右側の翼廊に回ってグリエルモ1世、同2世の遺体が収められた石棺、左側に回って、キリストの磔刑の場面の説明や1万本のパイプオルガンの話などを聞いて、モザイクの見物は終り中庭回廊の見学となる。
折角のモザイク見物をこれでお仕舞いにするのは勿体無いので添乗員に何とかならないかと聞いてみると、後で15分くらいフリータイムをとって呉れるそうだ。

中庭回廊

中庭回廊は大聖堂を出てファサードに戻り南側にある入口から入る。
荘厳な大聖堂を出て、中庭の芝生の緑と青空を見てちょっとほっとした気分になっているとガイドさんの説明が始まる、
グリエルモ2世が大聖堂と同じ時期に建設したベネディクト派の修道院付属の中庭回廊です、47m×47mの正方形となっています。中庭を取り囲んでいる石柱は2本組みになっていてアラブ風の尖塔アーチを支えていますが、その柱の数は228本もあり、1組おきに幾何学模様のモザイクがしてあります。
柱頭をよくみて下さい、新、旧約聖書の場面、神話の物語、ノルマンの騎士などの人物などなど1本、1本違った彫刻がされていますなどと説明を聞きながらガイドさんの後を歩いているとグリエルモ2世が大聖堂を聖母に捧げている様子の彫刻が目に入る。

西南の角に来ると、回廊の中の小回廊のように石柱に囲まれた噴水がある。噴水は
椰子の木をモチーフにしたもので、円柱の頂上には楽人らしい彫刻がされたつぼみのようなものが乗り、12頭のライオンを巡った後、水が下の水盤に落ちるようになっているそうだ。円柱に施された幾何学模様など中庭の噴水はいかにもアラブと言った感じである。

写真タイムになって、今一度回廊を歩くと、その昔、労働と祈りの生活をしたベネディクト派の修道士がゆっくりと散歩しながら思索に耽ったところなんだと思い至り、アルコバサの沈黙の回廊でも同じような気持になったことを思い出す。

旅行者にとっては、石柱と尖塔アーチの列がシンプルなハーモニーを醸し出す回廊、緑の中庭から回廊越しに眺める大聖堂など一服の絵をみるようだ。