ポンペイ観光

居酒屋

フォロ浴場を北側の出口(フォルトォナ通りに面したこちらが正面玄関であった)から出ると通りの向かいは居酒屋である。大理石のカウンターに埋め込んだ壷にワインや食べ物を入れて売っていた。ヴェスヴィオ火山の裾野は良質のブドウの産地でポンペイのワインは極上と評判だったらしいので、風呂上りにひっかける一杯は格別であったのではないだろうか。

悲劇詩人の家

居酒屋のすぐ近くに悲劇詩人の家がある。家中のモザイクや壁画がギリシャ悲劇を題材にしているので悲劇詩人の家と言われている。

クローズされているので中に入ることは出来ないが、入口の鉄柵越しに有名な番犬のモザイクが見える。猛犬注意と書かれているらしいが、埃をかぶっているのでよく見えない。このモザイクはレプリカでオリジナルを見たければナポリ国立博物館に行かなければならない。

同じ通りをしばらく進むと共同水汲み場がある。ポンペイでは金持は家の中に水道を引いて家事や風呂、庭の泉水に使っていたが、庶民用にはこうした共同水道があちこちに造られていた。

パン屋

また、少し歩くとパン屋がある、粉を挽く大きな石臼とパンを焼く釜が保存状態よく残っていて興味深い。石臼は横に穴があり、この穴に棒を通してロバや奴隷がグルグル回って粉を挽いたのだそうだ。

パン焼き釜は現在のピザ焼釜と原理的にはなんら変わらない。ポンペイにはこうしたパン屋が30以上あったらしいが、帝国の首都ローマの‘パンとサーカス’と言う訳にはいかなかったようだ。
この後、ガイドが予定を変えて秘儀荘に行くと言っていると添乗員から耳打ちされる。

ヴェティの家や牧神の家、売春宿など通常の観光コースは混んでいるので、ちょっと離れて空いている秘儀荘でお茶をにごそうとガイドが判断したのかも知れない。自分にとっては好都合だが、他の皆さんはどうなんだろう。

秘儀荘

エルコラーノ門から城門を出て、墓の道(ポンペイのネクロポリス、道の両側に霊廟や礼拝堂付きの豪華な墓が並んでいる)を600mほど行くと秘儀荘がある。

ワイン醸造で財をなした農家の屋敷が秘儀荘と言われているもので、屋敷の一室にディオニュソス信仰の秘儀の場面が描かれた壁画があり、この壁画に因んで秘儀荘と呼ばれるようになったそうだ。

ディオニュソスと言えば、ゼウスの浮気がもとで生まれたので、嫉妬深い正妻ヘラの追求を逃れるため奥深い山中でニンフに育てられ、成長してからもエジプトやギリシャ、シリアなど長い間逃亡生活をした後、オリンポス12神に最後に仲間入りをした神である。その逃亡生活の間にぶどう栽培やワインの製法などを身につけてこれを民衆に伝えたりして民衆の熱烈な支持を得たと言われているので、狂乱と陶酔、熱狂的な女性信者がいた東方の土着カルトがディオニュソス神話に組み入れられたのかも知れない。

秘儀荘は大きな屋敷で、いくつもの中庭や部屋を回った後、順路の最後の部屋にディオニュソスの秘儀の描かれた大きな壁画がある。
結婚に際しての花嫁の通過儀礼に関わるものらしいが、一連の壁画は10のパネルからなっている。

左側の最初は少年ディオニュソスが3人の女性に礼儀作法を読んで聞かせているところ、次のパネルは入信の準備をする3人の女性、背を向けているのは女祭司。

3つ目のパネルは竪琴を弾く従者のシノレスとサテュロス。一番奥はよく分からないが、入信前で不安な表情の女性らしい。
奥正面に移って、サテュロスに水を与えるシノレスと、ディオニュソスの聖なる結婚の場面(ディオニュソスの顔の部分は欠落している)。

奥正面の右半分には有翼の女性ダイモンが鞭を振り上げている場面が描かれ、南壁にはダイモンに鞭打たれて泣きき臥す女性(入信の儀式?)、隣はディオニュソスの儀式に陶酔して裸で踊る女性のうしろ姿が描かれている。南壁の手前は保存状態が良くないが、髪を梳く女性にキューピットが鏡を差し出している場面で、結婚準備だとも言われているそうだ。

ほぼ等身大に描かれた人物像はルネッサンスを髣髴とさせ、とても2000年に描かれたものとは思えない。ことに陶酔して踊る女性のうしろ姿を見てルーベンス思い出すのは自分だけであろうか。また、これらの人物の背景となっているポンペイの赤と言われる鮮やかな朱色の顔料は何んだろうか気になるところである。
(旅行から帰って調べたら、シナバー(辰砂)という水銀の原鉱石らしい。天然赤色顔料の辰砂が赤みがかった朱色を出すようだ )

ちょっと興奮気味にディニュソスの秘儀を見て、ポンペイ見物は終わり。

予定を15分ほどオーバーしたようだが、1時間45分ではポンペイのごく1部を見物したに過ぎない。また、貴重なものはナポリの国立博物館に所蔵されているようなので、ポンペイはナポリ国立博物館とセットで見なくてはいけないようだ。

いつか、またゆっくりと来てみたい思いなので、添乗員には皆さんと一緒する旨伝えて離団書を返して貰う。

ナポリ市内観光

市内観光と言っても、車窓から王宮やヌオーヴォ城、サン・カルロ劇場をちらっと眺め、サンタルチア海岸で卵城の写真タイムがあるだけの、付け足し観光である。

これで‘南イタリアとシチリア島の世界遺産を訪ねる8日間のツアー’は終了。明日は早朝にナポリを発って帰国の途につくことになっている。(旅の日程へ )

たっぷりと中身の詰まったツアーであったが、南イタリアにはまだまだ見どころが沢山残っているようだ。わがツアーにイタリア語ができる女性が3人もいると聞いたのは最終日であったが、優しかった皆さんに感謝、感謝。