国立美術館 その2

国立美術館は入場料が無料である。ロンドンのナショナルギャラリーには寄付を入れる箱が置いてあるが、ここにはそんな物もないようだ。

ツアーのガイドさんはムンクの絵を理解するにはムンクが育った環境を知ることが大切だと言って、‘ムンクは2男3女の長男として生まれました。父は軍医、その家系は学者や作家などが出ている名門です。

5才のときに母を亡くし、14才の時に大好きだった1つ上の姉を亡くしています、共に結核で血を吐いて死にました。そして妹は長い間精神病院に入院し、ムンク自身も病弱でした。暗い家庭と死の不安や恐怖が家族を支配し、とりわけ姉の死がムンクに決定的な影響を与えています’と説明してくれた。

‘病室での死’は死の直前にあるムンクの姉への家族のさまざまな思いと表情が描かれている。無表情に正面を向いた妹インゲル、背をまるめて悲しみを懸命にこらえようとしているもうひとりの妹、部屋の隅で柱にうつむいているのはムンクだろうか。

当時、すぐ下の妹ローラが10才、インゲルは一番下の妹なので、年恰好が合わない気もするが、絵を描いた時の妹なのかもしれない。
‘病める子供’は悲しみに頭を垂れる母と母をみつめる病弱の姉。姉は母に何をうったえているのだろうか、哀しみに絵の前から立ち去るのが躊躇させられる絵である。

‘春’は窓辺に暖かい日差しがさし、白いカテーテンが風にゆれて春の到来を思わせるが病室の少女は日差しを避けるかのように目をそむけている。そんな娘を母親は静かに見つめている。どうしようもない母と少女の哀しさが伝わってくる。

‘思春期’、胸がふくらみはじめた少女は足をかたく閉じ、身体の前で手を交差させ、正面を見つめている。緊張してこわばった様子に性のめざめと恥ずかしさが伝わってくる。

‘生命のダンス’、はガイドさんの説明を思い出す、‘この絵は生命のフリーズというテーマで描かれたものの1つで、白と赤と黒のドレスを身に着けた三人の女性が描かれています。中央の赤いドレスの女性は情熱的なイメージで、性的誘惑を表現していると言われています。

左側の白いドレスの女性は無垢を表わしています。そして、右側の黒いドレスの女性は死を暗示しています、ダンスの輪に入る望みもなく、傍観者となって絶望したようにたたずんでいるように見えます。このようにダンスの最中にも、すでに孤独、はかなさ、死・・・をムンクは暗示しています’

カール・ヨハン通りの夕べ、月光、マドンナ、灰、桟橋の少女たち、芸術家の妹インゲル、母と娘、自画像などなど、ムンクについては‘叫び’しか知らなかったが、生、死、愛をテーマにして自身の内面で体験した精神世界を表現しているムンクの絵を実際に観ることが出来るのは旅行の大きな楽しみである。

軽い疲れを覚えながら印象派の絵など観て、ショップで絵葉書を買う。
カメラ禁止なので仕方がないが、1枚、10クローネ、5割ほど割高な感じのうえに、たくさん買うので結構な出費である。

ホテルに帰る途中、カール・ヨハン通りのセブン・イレブンで晩飯を買う。貧乏旅行の財布の底が見えているので、焼きソーセジのバーガー、サンドウィッチ、ジュース、ミネラルを買って約1900円は痛い。大阪人の感覚ではせいぜい1000~1200円がいいとろだ。

遅い朝食をとっていると、隣に年配の2人連れの女性が座り、日本語が聞こえてくる。話しかけてみると2人はノール・カップまで行ったそうで、オスロで1日ゆっくりして東京に帰ることしているとのこと。

北緯71度の世界のことを聞いていると、ノール・カップに行くのにチャージなどで2万円かかって驚いたとか、自然にノルウェーの物価高の話になり、フロムのハイネケンが1400円もするとか、オスロでは平均賃金が50万円を超えるとか、北海油田でGDPが高くなっていることなど話が盛り上がる。

ついでながらこのお2人とは夕刻、中央駅のスーパーでばったり会って、お二人は北欧最後の夜はレストランで食事を楽しむことにしていたが、今晩はホテルでスーパーのラーメンで最後の晩餐ですと、小銭が残った財布を振って見せられることになる。ほんとにノルウェーの物価は頭にくるほど高い、観光客にまた来てくださいと言えるのだろうか。