博物館を出て、バスはダマスカスの街中を走る。

ダマスカスは古代から現代まで人が住み続けている町としては世界最古の町の一つ、アラビア語でダマスカスに行くことを‘シャームへ行く’と言い、美しさの象徴であったらしいが、車窓に見るダマスカスはいずこの町でも見られるような車が渋滞し、排気ガスが充満する現代都市である。

旧市街の城塞の近くでバスを降り、アラブの英雄サラディンの騎馬像をカメラに収めてスーク・ハミディエに入る。わがツアーにはスークでのショッピングタイムはないのでガイドさんの後について急ぎ足でスークを抜けるとローマ門の廃墟があり、突き当たりがウマイヤドモスクの西門である。

観光客は北門から入るらしく左手の通路に行き、ここで女性陣は更衣室に入ってねずみ男に変身、一見、声を掛けるのも遠慮したくなる格好である。

右後方にあるのがサラディン廟ですと教えられるが、残念ながらわれわれの観光コースに入っていない。

で、靴を脱いでウマイヤドモスクの中庭に入る、例によって、まずガイドさんのお話から、ここには、BC10世紀にはアラム人のハダト神殿があった。AD1世紀、ローマがゼウス神殿に変え、4世紀にはキリスト教会になりジョン・バプティスト教会(洗礼者ヨハネ教会)と呼ばれた。

AD636年、イスラムがダマスカスを占領してからは、建物の西側は教会、東側はモスクとして共用されていた。

ウマイヤ朝の6代目ワリード1世は、キリスト教徒のために新しい聖ヨハネ教会を建て、705年から10年かけて壮大なモスクに改築、全体がモスクとして使われるようになるには100年近くかかった。ウマイヤドモスクは現存する世界最古のモスクであり、イスラム教にとってはエルサレムに次ぐ第4の聖地とされている。

モスクは南側に礼拝堂、北側に中庭を配置し、その周囲を157m×100mの外壁が取り囲んでいる。1167年と1893年の2回火事があり、特に1893年の大火事では焼け落ちてしまったので、現在のモスクはその後修復されたものである。

さて、中庭は東西122m、南北50m、東西と北側は2階建ての回廊に囲まれ、床には大理石が敷き詰められている。

中庭の正面には信者が身を清める水場、西よりには高床式の宝物庫があり、中庭から見上げると右手に西のミナレット、左手にはイエスのミナレット、振返って北の回廊を見上げると花嫁のミナレットと呼ばれる3つの塔がある。

ガイドさんによれば、西のミナレットはマムルークの塔とも呼ばれ、1488年にスルタン、カイドベイの命により建立されたものでエジプト様式の塔である。イエスのミナレットは1759年に建設され、最後の審判の時にイエスがこの塔から降臨するという、先端が尖ったオスマン様式の塔。花嫁のミナレットは1172年の火事で焼失後、サラディンが再建したと言われている。商人の娘が尖塔の屋根に塗る鉛をカリフに寄付したところ、カリフに気に入られて花嫁になったという由来があるとのこと。

3つの塔はそれぞれの時代を反映して形、デザインが違い、なかなか面白い。

礼拝堂正面の入口の上には、樹木が生い茂るグータ・オアシスの様子が描かれた緑と黄金のガラスモザイクがあるが、1893年の大火事では焼失、修復されているので、オリジナルはいくらか残っているに過ぎないらしい。黒く見えるところがオリジナルだとガイドさんに説明されるが、よく分からない。

西側回廊のモザイクは8世紀のもので、ダマスカスの町の様子を描いているとか、マダバ川が流れ、鬱蒼と茂る森のなかに建物が点在し、理想郷のようである。

西の入口から礼拝堂に入る。礼拝堂は奥行き137m、バジリカ様式で、2列の円柱がずらっと並ぶ様は壮観であるが、ブルーモスクやエスファハンのイマームモスクを見た時の驚きほどには感じない。現存する世界最古のモスクと説明されて、そうなんだと思うが鈍感になっているようだ。

床に一面に敷かれた絨毯を進んで行き、天井を見上げると鷲のドームと呼ばれるドームがあり、周りにアッラーやムハンマドの名が書かれているとのこと。

時間は11時半前、右手のメヘラブの前には信者がたくさん集まって、イマームの話を聞きながらお昼のお祈りを待っているようである。

さらに少し奥に進むと、ヨハネの首が納められていると言われているガラス張りの霊廟がある。ヨハネはサロメの求めに応じたヘロデ王によって斬首されたと言われているが、ガイドさんによれば、どうしてここにヨハネの首が移されたのか分からないそうだ。

洗礼者ヨハネはコーランにもヤヒヤーの名で預言者として登場するので、ウマイヤドモスクに祀られているのに不思議はないが、キリスト教徒にとっては人質にとられたようで内心忸怩たるものがあるのではないかとご推察申し上げるが、仏教徒の勝手なおせっかいだろうか。

中庭に戻って暫し休憩、わがツアーの美女2人の写真を記念に撮らせて貰うが、ねずみ男の姿ではHPに載せる許可が出ない。