大英博物館のフロアーマップ

(British museum のパンフレットより)
1階、茶色がエジプト室。紫色のギャラリーが中東部門の展示である。エジプト室の左奥の隅っこにあるRoom6から始まって、Room7・8とRoom9がエジプト室の裏側に回廊のように伸び、ニムルドやニネヴェから出土した彫刻やレリーフが展示されている。また、Room7の横手にでっぱったかたちのRoom10aではライオン狩、Room10b、cにユダヤ捕囚のレリーフなどのが展示されてる。

Room6

Room6から見物を始めると最初に目に入るのが巨大なライオン像である。
身長2.24mのこのライオン像はニムルドから出土した、BC883~859頃の作品である。

怒り狂って咆哮しているようであり、巨大さと相まって怖さを感じさせる。頭部は丸彫りであるが、胴体部分は半丸彫りされバックが壁となっている。
ニムルドのアッシュールナシバル2世宮殿に隣接した小さなイシュタル神殿の門に置かれていたと言う、イシュタルは言うまでもなく戦いの女神である。メソポタミアでは神殿の入口や都市の門の脇にライオンや牡牛像を据えるのが慣わしであり、またライオンそのものもこの地には19世紀まで生息していたらしい。

同じ役割をした人面有翼獅子像は高さが4mを超えるものもあるが、人の顔をした合成獣であり寓話的な感じもあるので怖さはあまり感じさせないが、このライオン像は現代の彫刻家の手になるように写実的でど迫力がある。

黒いオベリスク

アッシリア部門で最も有名なものの1つが、この黒石灰岩で高さ19.85cmの黒いオベリスクである。ニムルド出土でBC858~824頃のものと言う。
シャルマネゼル3世(在位858~824BC)の輝かしい戦績を一般に知らせる

めに建てられた記念碑で、王の31年に及ぶ軍事遠征やラクダ、猿、象や犀などの近隣諸国から略奪した貢物などが描かれている。アッシリアの王達はエキゾチックな動物や植物を彼らの力を誇示するために収集したと言う。

オベリスクの4面のそれぞれ5段に合わせて20の貢物献上の場面が描かれ、下段に楔形文字で貢物についての説明が加えられているのだそうだ。それらは北西イラン、古代北部イスラエル、エジプト、ユーフラテス中流のシリアとイラク、トルコである。

オベリスクにはイスラエル王の貢納の場面もあり、現存する最古のイスラエル人を描いたものと言われている。イスラエル第4代王朝のエヒウ王がシャルマネゼル3世の前でひれふしている場面が有名らしい。
碑文にはイスラエル王、オムリの息子のアハブがダマスカスとの戦で戦死、後継のヨラムから王位を簒奪したエヒウがフェニキアとユダとの同盟を破棄してアッシリアの支配下に入ったと書かれていると言う。

白いオベリスク

黒いオベリスクと並んで立っているのが白いオベリスク。ニネヴェのセンアケリブ宮殿とイシュタル神殿の間から出土した、BC1050頃のもの。

未完成の碑文にはアッシュールナシパルとあり、多分アッシュールナシパル1世だろうと言われている。王は上段では戦車に乗って戦い、下段では狩と儀式に参加、中段には戦利品と貢物が描かれているそうだ。これはアッシリアでの物語風の初期の例であり、後の世代に宮殿を飾ったレリーフの先駆けとなるものと言われている。

アッシュールナシパル2世の石碑

高さ2.94m、石灰岩で造られたこの石碑はニムルドのニヌルタ神殿から出土した。BC883~858頃のもので、重さが4tあるそうだ。神を崇拝すると共に自らの業績を記録するためにアッシリアの王は石碑を造った。
多くの石碑はこの石碑のように、王の主な神々の前に立つ姿で表されている。王は丁度指をピッシと鳴らした後の人差し指を伸ばしながら右手を上げている。これアッシリアの王が神を敬い、嘆願する典型的な姿勢なのだそうだ。

王の頭上には神々がそのシンボルで表されており、角を付けたヘルメットは最高神、アッシュール、有翼円盤は太陽神シャマシュ、三日月は月の神シン、熊手は雷神アダト、そして金星は愛と戦いの神イシュタルである。 碑文は神への祈りから始まり、この石碑を破壊しようとする者への呪で終わっているらしい。

神と怪獣のレリーフ

Room6の主に彫刻が展示されている一角の中でのレリーフである。
ニムルドのニヌルタ神殿の入口に並べられていた1対のレリーフの1枚だそうで、ニムルドの最高神であるニヌルタを表すものだと言う。神は両手に雷を持った有翼の姿で表され、鎌の形をした剣を背中にさげもう1つの剣を腰に差している。ニヌルタ神がおどろおどろしい獅子面をした怪獣を追っている場面であるが、この怪獣の属性ははっきりしないらしい。

バラワート門

アッシリアの彫刻が展示されているRoom6の対面にバラワート門 が復元されている。
見る角度によっては一見、バラワート門を人面有翼獅子像が守護しているような展示になっているが、人面有翼獅子像はニムルドの北西宮殿のアッシュールナシパル2世の王座室に通じる門に据えられていたものであり、バラワート門はニムルドから北東16kmにあったイムグル・エンリル(現在のバラワート)の宮殿の神殿の門なので両者に関連はない。

展示されている木製のバラワート門は原寸大に復元さされたレプリカだが、高さは約6.8mもある。発掘された時には木材は消失して青銅の帯の破片しか残っていなかったが、当時はレバノン杉の門を青銅の帯が被っていて、シャルマネセル3世の遠征の様子が青銅の帯に細かく描かれていた。

人面有翼獣像(lamassu)

大英博物館にはRoom6とRoom7、Room10の入口に3対の人面有翼牡牛・獅子像が展示されている。Room6の人面有翼獅子像とRoom7の入口の人面有翼牡牛・獅子像はニムルドの宮殿の門を守護していた。人面有翼獅子と人面有翼牡牛の違いは足の先だけで、獅子の爪に対して牡牛は蹄をもっているので、爪と蹄で獅子と牡牛を判別するのだそうだ。

Room7では向かって左が人面有翼獅子像で右が人面有翼牡牛像である。ニューヨークのメトロポリタンも同じく獅子像と牡牛像が左右対になっているらしい。
Room10の人面有翼牡牛像は他の像より高さも長さも1mくらい大きく重さも16tもある巨大なものである。あまりにも重くてフランス隊がコルサバードからルーヴルへの輸送をあきらめた後、イギリスの知恵者が何個かに切り分けて運搬する方法を思いついて大英博物館に運び入れたそうだ。

ニムルドなど発掘したヘンリー・レヤードはこうした合成獣は、ライオン(又は牡牛)の力強さ、翼が表す鳥の敏捷さ、人面の知恵を合わせ持つものを表していると言う。