Room10

Room10はアッシュールバニパル王の有名なライオン狩やユダ王国のラキシュ攻略などのレリーフが展示されていて、アッシリア展示の白眉である。先ずはライオン狩から、

ライオン狩

アッシリアのライオン狩は王のためのスポーツであり、また、自らの力を誇示する政治的、さらに神の庇護を得る宗教的な意味を持つと何かで読んだ気がするが、Room10の入口のパネルには、‘アッシリアの王はあらゆる敵から民を守らなければならなかった。この義務は王の印章(シール)でも象徴的に表されており、そこでは王はライオンと向かい合って剣をライオンに突き刺しているところが描かれている。

前7世紀の中頃にはアッシリアは充分な雨に恵まれる年が続いたのでライオンは何処にでもいるという状態であった。アッシュールバニパルの記録によれば、民が住んでいる近くの丘でライオンの咆哮がこだまし動物たちは震えていた。ライオンは家畜を襲い、人の血を撒き散らしていた。

人や家畜、羊の死体が積み重なって、あたかも疫病が蔓延したようであった。羊飼いや牧夫はライオンのすることを嘆き、村は日夜悲嘆にくれていた。そのような疫病を退治するのが王の務めである。しかし森や原野で実際の狩をするより、ライオンを捕らえておいて狩り場(アリーナ)に運んでライオン狩をする方が便利であった’と解説されていて実利的な面が強調されていて面白い。

ライオン狩へ出発

ライオン狩のレリーフは北宮殿から外に向かう裏門に通じる廊下から出土したもので、王は多分この道を通って狩に出かけたものと思われる。そして壁のレリーフには王と従者が描かれており、一団の男たちは猟犬、ネット、棒、わな用に紐を巻いたボールなど狩の道具を携えて行進している。それぞれ期待に胸をふくらませている様子である。

鹿狩

ライオン狩と言ってもライオンだけではなく鹿やガゼル、馬なども狩猟の対象となっていた。
鹿狩の場面では、鹿の群れが勢子に追い立てられ一目散に逃げているが、逃げ道にはぐるっと網が張られ罠になっている。網の中では騎手が網に絡まった牡鹿と格闘しているようである。

ガゼル狩

ガゼルの群れが草を食みながらのどかに歩いている。そこへ突然矢が飛んでくる。近くの穴に隠れていたアッシュールバニパル王が放った矢である。ガゼルは驚いて飛び上がっているが、すぐ隣では王の放った矢がガゼルの胸を射抜いている。矢が刺さったもう1匹のガゼルはすでに息絶えようとしている。この場面は3匹のガゼルがいるのではなく、同じ1匹のガゼルが、驚いて飛び上り、胸を射抜かれ、息途絶えるところを連続して描いているようだ。

野生馬狩

アッシュールバニパル王が疾走しながら馬上から野生馬に矢を放っている。王の後ろの従者の1人が王に矢を手渡しており、他の従者は替え馬を引いている。馬たちは射貫かれたり、猟犬に噛み付かれ引き倒されている。最後に1頭の馬が投げ縄で生け捕りさるところが描かれている。野生馬は生かしておいて家畜に育てる必要もあるのだ。

ライオン狩

檻から出るライオン

あらかじめ捕えられていたライオンが檻に入れられ狩り場(アリーナ)に運ばれる。それぞれの檻には世話係り(よく見ると子供のようである)がいて、自分の檻は自分の責任で管理している。
子供はライオンの檻の上の小さな檻に隠れている。今、子供によって檻のふたが開けられ1頭のライオンが放たれるところである。この後、ライオンは王の方向を目掛けて一目散に駆けていくのである。

ライオン狩の3つのスタイル
騎上のライオン狩

アリーナは兵士によって2重、3重に取り囲まれているのでライオンは外に逃げ出すことは出来ない。その狩り場のなかで、従者が馬を疾走させながら矢を放ってライオンに命中させており、すでに何頭かのライオンが死に絶えているようだ。

さらに、馬上から槍でライオンを仕留める様子も描かれている。前から飛び掛ってくるライオンの口に槍を突き刺して仕留めようとしているが、もう1頭のライオンが後ろから替え馬に飛び掛っている。前のライオンを突き殺して、後ろのライオンに立ち向かう余裕があるのだろうか。迫力のある場面である。

戦車によるライオン狩

戦車のライオン狩はライオン狩のハイライトであり、緊迫感と迫力満点のスペクタクルである。いくつかの戦車のシーンが描かれており、その1つはバケツを逆さにしたような帽子を被ったアッシュールバニパル王が戦車に乗って狩り場を疾走している。すでに弓で射られて死んだとして放置されていたライオンが起き上がって戦車の後ろに飛びついている。2人の従者が槍で押し止めていると、王が剣を抜いてライオンの喉にとどめを差している。

別の場面では、顔に最初の一撃を受けた1頭のライオンが戦車の車輪に噛み付いている。従者の1人は王の弓を持ち、もう1人は槍を持っている。王は従者から受け取った槍でその傷ついたライオンを突き刺しているところが描かれている。

1対1の対決

最も勇ましいのが、アシュールバニパル王が1対1でライオンと対決、ライオンを仕留めるシーンである。ライオンが後ろ足で立ち王に飛び掛ってくるが、王は剣でライオンの心臓を突き刺している。王が自らを宇宙に並ぶべき者なしと誇示するに充分なシ-ンである。また、別の場面では従者に盾で守られながら王がライオン目がけて矢を放つところが描かれている。

死にゆくライオン

アリーナにはあちこちにライオンが転がっている。それらの多くはすでに息絶えているが、中には矢が何本も突き刺さって口から血が吹き出し、静脈が浮き出ているところがリアルに描かれたものもある。ライオンの動作を注意深く角に観察し、それを写実的に繊細に描写するアッシリアの芸術家の技量の高さには驚かされる。

献酒

アシュールバニパル王の足元には3頭のライオンの死体が転がっており、ライオン狩は無事終了している。これから献酒が行われるところだが、アシュールナシパル王の献酒のシーンに比べて舞台装置が大がかりである。王の前には台の上に食べ物が供えられ、高い台では香が焚かれている。楽士が音楽を奏でるなかでお酒(ワイン)が注がれ、神に捧げる儀式が終了する。

ライオン狩からの帰還

狩に出発する様子が描かれていた壁の反対側の壁には狩からの帰りの様子が描かれている。狩り場で仕留められた獲物を抱えての帰還である。ライオンは3頭、先頭のライオンを担ぐ1番後ろの従者は左手で背中の尻尾の辺りを押さえ、右手で足を掴んでいる。ライオンの頭の描写も含めてリアルである。

(2013年4月24日から8日間、JALのマイレージを使ってロンドンとパリの旅をした。大英博物館のHPを見ていたら、メソポタミア部門のライオンルームの修復が終わり、3月31日から再開されるという知らせが載っていた。今回、ROOM10のライオン狩のレリーフは不鮮明なものもあり、なんとなく欲求不満の感があったのでライオンルームをもう一度見てみようというのが2013年4月の旅の主な目的であった。

4月25日に訪れたROOM10のメインルームにはアッシリアの写実性豊かなライオン狩りのレリーフがずらっと展示され、まさに圧巻であった。ブログの記事自体は改めて書くこともないと思っているので、画像を追加することにし、迫力満点のライオン狩りをGALLERY2として乗せていますのでご覧下さい、今回の画像と重複する部分がありますが、そのままにしております)

ラキシュの攻落

エルサレムの南西45kmにあるラキシュはユダ王国のなかで2番目に重要な都市であった。旧約聖書の時代には、ラキシュはエルサレム防衛の重要な役割を持っていた。エルサレムを攻撃する軍にとって最も容易な方法は海岸から攻めることであったが、ラキシュはエルサレムに通じる峡谷の要衝にあった。

BC701年、アッシリアの王センナケリブはエルサレム包囲攻略の途上、いくつもの都市を制圧したが、ラキシュの攻落が1番重要であった。ニネヴェの西南宮殿にはセンナケリブのラキシュ攻落の様子を描いたレリーフが飾られていた。これらのレリーフにはラキシュ攻略の様子が生き生きと事と細やかに描写だれていてアッシリア芸術の水準の高さが読み取れる。

攻撃開始

攻撃開始のシーンは、後方で長距離の投石砲から石が打ち放たれ、射手部隊が弓を一杯に引き絞って矢を放っており、前方では急襲部隊が突撃の準備をしている。いよいよ包囲攻撃が開始される様子である。

城壁の攻防

攻城兵器(破城槌)を先頭にアッシリア兵が傾斜路(攻城用に造られた?)を登っている。敵は城壁の上から火のついた松明を投げ付けているが、攻城兵器のなかでは柄杓を持った兵士が燃えないように水をかけている。アッシリアの芸術家は攻撃の結果を見越して、男女が町の門からあふれ出し、国外に追放されるのを待っている様子も描いている。

捕虜の観閲

立派な王座に腰掛けているセンナケリブ王は捕虜が王の前に連れてこられるのを観閲している。王の前方では捕虜の処刑が行われている。何の理由もなく、時々こうした処刑がなされたようだ。
王の後ろにはテントが張られ、護衛が王を取り囲んでいる。王の戦車は前方の下の方に止められている。王の顔はひどく傷ついているが、多分、これはニネヴェが陥落した後の時代に敵の兵士が腹いせにやったものだろうと言われている。

戦利品

ラキシュ攻落の後、アッシリア兵が戦利品を宮殿から持ち出している。戦利品には刀の束、円形の盾、戦車、王座や一対の香炉などである。下部ではユダ王国の捕虜が身の回りの物、家畜などを携え家族と共に国外追放される様子が描かれている。

捕虜

ブドウや無花果の木が生えている岩場が続く風景のなかをラキシュの捕虜の行列が延々と続いている、多分、遠くの背景はオリーブの木であろう。
高官はアッシリアへの反乱があれば責任を取らされるので容赦のない取り扱いをしており、捕虜のうち2人が生皮を剥がされている。アッシリアの王のなかでも取り分け残虐であったと言われるセンナケリブ王の高官であれば、さもありなんと言った感じである。

アッシリア軍の陣地

このレリーフがラキシュ攻落シリーズの締め括りをなすもので、ラキシュの包囲攻略を行っている前線基地の様子を表している。要塞のようになっている基地の真ん中を道路が走り、テントのなかでは従者が働いており、2人の神官が戦車の前で儀式を行っている。その戦車には神の戦旗が掲げられている。